市立青梅総合医療センター

イメージで辿る胃がん手術いまむかし

2021年07月16日

外科部長 竹中 芳治

作曲家ブラームスの親友であったオーストリアの外科医ビルロートが世界初の胃がん手術を成功させたのは1881年のこと。迅速な手術をモットーに胃の4分の3を切除、残る胃と腸とつなぐだけの手術でした。患者さんは43歳女性、術後1か月で無事退院したものの4か月後にがん再発により亡くなりました。

胃がんの転移

胃がんの飛び火、高跳びの様式は4通り。

    1. リンパの流れに乗って“リンパ節転移”
    2. 血流に乗って“血行性転移”
    3. 胃の壁に穴を開けて顔を出し隣の臓器へ浸食すると“隣接臓器浸潤”
    4. 胃壁を貫通、お腹の中にパラパラとこぼれて“腹膜播種”

徹底的に切除するのじゃ

胃がん手術では、すでにがん細胞に占拠された転移リンパ節の切除が必須です。しかし、手術中肉眼で転移が起こっているリンパ節か否かを判別することはできません。NHKでテレビの本放送が開始された1953年、「転移が起こる可能性のあるリンパ節をくまなく切除せよ」と謳う「胃癌におけるリンパ系統の徹底的郭清」という概念が発表されました。これは日本の胃がん手術、特にリンパ節切除法の基礎となりました。そして、転移の可能性のある部位はすべて切除(上述①②)する、病変が隣接する臓器に浸潤しておればこの臓器(上述③)も切除する、という拡大手術路線(上述①も②も③も④も切除!)を突き進みました。

ちょっと待て

が、治療成績は向上せず。やがて、がん細胞は発育増殖の過程で「胃の周辺にがん細胞が住んでいる時期=局所性」と「もはや、がん細胞が全身を巡っている時期=全身性」に分かれることが認識されます。手術は最大の「がん局所の制御手段」であり、局所性の段階では威力を発揮するが、ひとたび全身性となれば無力なのだと。大手術が安全無事に終了しても、無力なのです。近年、標準手術(定められた上述①のみを切除)VS拡大手術、どちらが良いのか?が検討され、「どうも拡大手術はよろしくない」という結果が次々に報告されています。

小さく切除するのじゃ

早期がん診断能の向上により、早期胃がんの件数が増えました。手術データの検討から、早期胃がんであれば、進行がんに比べて手術の規模を控えめにした縮小手術でも十分に根治できることもわかってきました。

そして、当院で行っている胃がん手術

私たち手術スタッフは、胃がん手術の限界を熟知しているつもりです。①早期胃がんに対する必要にして十分な手術、身体への負担の少ない腹腔鏡下胃切除②これまで早期胃がんのみにしか適応されなかった腹腔鏡下胃手術を進行がんにも応用する③切除した胃の病理診断で判明する最終的な病状・進行度に応じて、手術後に化学療法を施行④がん転移状況を見極め、先に化学療法を施行、病変をおとなしくさせた後に手術を施行⑤がん発見時に手術が全く無力な段階だと判断されても、化学療法を開始、著効して局所性病変の範疇となった場合には、この時点で手術を施行。

これらを手術治療の柱とし、これまで重ねに重ねた研鑽を武器に、過不足のない安全な手術を心掛け、日進月歩の全身療法(手術以外の治療)と手術の併用に関する正確な知識の吸収に励んでおります。私たちの取り柄は“これだけ”です。

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