市立青梅総合医療センター

ICUの取り組み

つづる・つなぐICU日記

ICU滞在中の記憶の欠損や妄想的記憶を補完・是正するために提唱された取り組みがICU日記です。これは、患者の不安・抑うつ・心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post Traumatic Stress Disorder)を軽減するケアとして近年注目をされています。ICU日記に期待される効果は集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)1)のうち、患者とその家族に発症するメンタルヘルスの障害(不安・急性ストレス障害・PTSD・うつ)を軽減するとされています。その他の効果としてはICU退室3か月後の抑うつ症状が軽減2)、ICU退室3か月後の不安症状と抑うつ症状が軽減3)、ICU退室1か月後のPTSD発症率が低減4)、そして患者のQOLを改善させるとする報告5)もあります。

このような背景より、過去のランダム化比較試験の情報を統合し、精神症状を軽減する効果があったICU日記の特徴を明らかにすることを目的とし、効果的なICU日記とはどのようなものなのかを明らかにした報告6)があります。これによると患者の精神症状を軽減する要素は「医療スタッフの記載がある」「退院後に渡す」「医療スタッフと一緒に読む」ことはポジティブな結果として挙がりました。また家族の精神症状を軽減する要素は写真付きのICU日記が唯一、家族の精神症状を軽減する要素でした。写真付きのICU日記を(資料1)に示す。

ICU日記により患者さんり「そういえば、こんなことしていましたよね」「ICUでのことはあまり覚えていませんが、みなさんがこんなことをしてくれていたんですね」「病棟に行ってからも読み返したり、ときどき自分でも書いたりしています」「治療の様子がわかり良かった。」患者本人は「こんな状態からよく回復できたな~」「すごくうれしかった。(ICU日記は)一生の記念。」と涙ぐんでいる様子も経験しました。家族からは「これを見返して、ICUにいたときのことを振り返っています」「つらかったこともあったけど、いまは励みになります」とする意見を数多く伺います。一般病棟スタッフからは「ときどき、患者さんと見返しています」「ICUでの経過がわかって助かります」と、看護師間の連携にもつながっています。一方でICU日記のデメリットとして患者と家族はICU日記に対して肯定的な意見ばかりではないことも経験し、「見る勇気が出ずまだ開けていない。」「患者本人は怖がって見ようとしない。」と発言される患者・家族も存在し、ICU日記を初めて読む際は、ICUで経験した苦しみを再認識することとなり、患者さんとご家族が負担を感じる可能性もあります。これに対し、ICU日記を受け取った患者さんに対して、ICUでの出来事を振り返る際には医療スタッフと一緒に読むことでデメリットは軽減できるものと考えらます。

これら踏まえ、効率的なICU日記の運用を定め、患者・家族にとって効果的なICU日記の取り組みをしています。

〈写真付きICU日記の例〉

今後、どのような患者さんに対して、どのような効果があるのか明らかになるといいと思ってます。

文献)
1)Needham DM, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders' conference.Crit Care Med 2012; 40: 502-5.
2)Wang S, et al. Effect of an ICU diary on psychiatric disorders, quality of life, and sleep quality among adult cardiac surgical ICU survivors: a randomized controlled trial.Crit Care. 2020
3)Kredentser MS, et al. Preventing Posttraumatic Stress in ICU Survivors: A Single-Center Pilot Randomized Controlled Trial of ICU Diaries and Psychoeducation.Crit Care Med. 2018
4)Jones C, et al.Intensive care diaries reduce new onset post traumatic stress disorder following critical illness: a randomised, controlled trial. Crit Care. 2010
5)Hu D, et al. Effect of intensive care unit diary on quality of life of intensive care unit survivors and their relatives: A systematic review and meta-analysis.Nurs Open. 2023
6)Hu D, et al. Effect of intensive care unit diary on quality of life of intensive care unit survivors and their relatives: A systematic review and meta-analysis.Nurs Open. 2023

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